
木版画の制作風景
木版画の制作を始めて約50年。藝大の油絵科に入学したもののしっくりこない何かを感じ、3年時に版画専攻を選択しました。
版画には木版・銅版・リトグラフ・シルクスクリーンの4版種があります。昨今ではデジタルもある中、私は木版画を選び今日まで制作しています。
木版画のルーツは浮世絵にあり、日本の版画では最も古い歴史をもち、手漉きの和紙や版木、バレンや彫刻刀など独自の素材や道具を使って制作しています。
浮世絵は「絵師」「彫り師」「摺り師」「版元」と分業制ですが、現代木版の作家はそのすべてをひとりで行っています。

印刀・丸刀・間透き・見当ノミなど、様々な種類や大きさを使い分けて彫る

取材したスケッチや写真を元に鉛筆で原画を起こす

原画をトレッシングペーパーに写す。裏から版木にトレース。1作品12版ほど

2版重ねる1版目の版。部分ごとに彫って摺りで組み合わせる

印刀で輪郭を彫った後に丸刀で縁を台形に整える

平彫りの上に重ねる2版目の版。蓮の葉の表情を彫っている

まずは印刀を使って彫る。木屑はくるくるしていて可愛い

下絵に添って印刀で描くように彫る。勢いが大切。木版画らしさを感じるパート

亀や水紋の飾り彫り。幅の違う丸刀や三角刀を駆使している

彫りあがった版木。小品は1枚の版木に6~7版分入る
浮世絵でいう「絵師」と「彫師」の部分です。
木版画の原画は鉛筆で描いて、それをトレッシングペーパーに写しています。それを裏返して版木に転写するので、彫りは左右反転した絵柄を彫ることになります。
何種類もの彫刻刀を使い分け版木を削っていく作業は、わずかな木の香と削る音を感じる静謐な時間。

絵具は水性絵具を使用。顔料ではなく不透明水彩

本バレンは専門の職人さんに作ってもらった一生もの。表の竹皮は自分で包みかえて使う

版木に筆やブラシを使って絵具をのせる。その上に中表にした和紙をのせ裏から摺る

和紙の裏からあて紙をおいてバレンで摺る。色は裏にも貫通

摺りはなるべく淡い色から摺る。雨の色や花びらや葉っぱなど

隣の絵具が滲まないように摺る順序を考える。和紙の白が美しく途中もいい感じ

絵具はあらかじめ前日に調合する。試し摺りを見ながら色見本帳も作る

全ての色は2度同じ工程を経て摺る。1度目でどの位摺れたかチェック

紙は見当に置いてあるだけなので決してズレないように細心の注意が必要

飾り彫りした水紋。バレンの手加減ひとつで表情が大きく変わる繊細な摺りのパート

見当は「カギ見当と引きつけ見当の2か所。ここに紙の余白に作った溝を置き合わせる

摺りの時は所定の場所に道具がいっぱい。加湿器をMAXにして部屋の湿り気を保つ
何版にも分解された版を隣の絵具が滲みださないよう、なるべく淡い色から摺っていきます。絵具は前日に調合し、和紙も湿らせ重しをのせて半日以上おきます。
摺る道具はどんなに大きな作品でもバレンのみ。まるでジグソーパズルのピースをはめるように、ある部分だけを摺ります。摺り重ねるにつれ全容が見えてきて、最後に黒い線のパートを慎重に摺って完成。
木版画の材料は、木の版木、手漉きの和紙、水性絵具。道具は彫刻刀、バレン。いずれも江戸時代からさほど変わらない材料と道具を使って1枚1枚創っています。
現代作家としてのアーティストの顔と、彫り師・摺り師が担っていた職人の顔を、併せ持つのが現代の木版画家です。
時代はデジタルだAIだと日進月歩ですが、木版にしか出来ない表現に惹かれています。